辻留

「おい！ビールもってこい！」
声の主はあの辻留の主人。
家元の中の厨房の横にある控えの部屋からの怒鳴り声。
家元がいないときだけのでかーい態度。
家元の前ではこめつきバッタのようになるのに、いないとなったら自分が一番偉い。
厨房裏には大先生もめったに来ませんからねえ。
家元の中には京都中の料理屋が仕事をしに来ますが、
そんなに威張るほどおいしくありませんでしたけどね、辻留。
でもってそこの料理人たちも偉い。
プライドが高いとかじゃなくて、不遜な態度。
家元が変なものを育てちゃってる一番悪い例かもしれませんね。

ご祝儀袋

 「よろしくお願いいたします」
こっそり渡されるのは「ご祝儀袋」
お金でなんでも融通してもらうのがこの世界。
家元の行事は毎週なにかしらあります。そのたびに内部の人間にいろいろと融通してもらい、家元に少しでも覚えのよい立場に近寄ること、それが本人の利益にもつながるからです。
内部の人間も形的には家元（今日庵）の職員ということになっていて、お給料をいただいていますが、この「ご祝儀」がお給料の数倍になってしまうのが通例。つまり、申告していない収入が莫大になります。
そしてもっとストレートなやり方もあります。執事を通して家元に贈り物をします。それは一般的にお中元・お歳暮のようなものですが、それはあくまで「台」。その上に分厚い「袋」が載っているわけです。それを管理する執事長は強大な権力を握るのは当然ですね。申告しているだけでもものすごい収入ですが・・・
家元って・・・金儲けのために生きているんでしょうか。

こら！やめんか！

 「こら！やめんか！」と
叱りつけられたのは、裏千家学園の生徒。
叱りつけたのは、そのころまだ宗室を名乗っていた15世。
生徒が何をしていたのかというと、分担している清掃区域の掃除、のはずだったんですが、千家の周りは細い路地ばかりなので、その路地の千家側ではなく、他家の前までちょっとだけサービスでお掃除。
それを通りかかった15世に見咎められたという次第。
道幅3メートルもない反対側をちょっと掃いただけのようですが、褒められるのかと期待したのが馬鹿だった。
叱られちゃった・・・
近所の家に何の恨みがあるのか、顔を真っ赤にして怒ることはないだろ、とショゲてました。

『一碗からピースフルネスを』をテーマに世界中をまわる15世。
ご近所には関係ないことみたいですね。

Sさん

『おーう、○○はん』
「あ、Sさん、お疲れ様です」
『おーう』

Sさんは最後の下人かもしれません。
下人？Wikiでも見ていただけばだいたいわかりますが、個人の家にいる奴隷のようなもの。主家のために生きている、主家のためだけに生きることを許されているような状況の人、です。
もちろん現代日本で公にそのようなことはありませんが、事実彼は存在していました。家元に仕えることが彼のすべてで、迷いなどはなく、日々影の存在として見えないところで働いています。今日庵の真裏には許状部がありますが、その間のわずかな空間に彼の小屋と畑があります。トイレは大きな空き缶、寝床はゴザ、裸電球ひとつの小屋の中には長年蓄積された彼の宝物が隠されています。
彼の主な仕事は庭の管理。年に数回、庭師の業者が入りますが、大規模に刈り込んだりするためで、それ以外の細かいところはSさんが管理しています。敷地内のたけのこを守ったり、杉苔を増やしたり、あのきれいな露地を仕切っている影の実力者でした。

もう何年も会っていないのですでに他界しているでしょう。
Last Genin S
「Sやん」と親しんで呼んでも、Sさんがにっこり『おーう』と返せばSさんに認められたとき、と言われているそうです。

吹き溜まり

彼の名はN
山梨学院大学卒
特技極真空手
身長162ｃｍ
30歳を過ぎて普通免許をとったものだから、うれしくてうれしくて、古い古い家元カーをただ同然で譲ってもらい、仕事中だというのに軽快に街をぶっ飛ばしていたところ、ちんたらチンタラ走るベンツを発見。何事にも自信過剰なNは、ベンツは「やばい」なんて知らないKY君なので、あおる、あおる。ベンツのおにーさんたちは車の中でこんなことを言っていたのでしょう。「いい獲物がかかりそうやな」
軽くブレーキを踏まれただけで、コッツン。降りてきたおにーさんたち、優しかったらしいです。「いいよいいよ、同じもの買ってくれれば、それでいいんだから」
それでもまだ家元においてもらえるんだから、家元は寛大ですよねえ。まあ、そういう人間の吹き溜まりなんですけどねえ。